「このURL、うちのでしたっけ」
AIの回答に自社名が出て、その横に並んだURLを見て一瞬止まったこと、ありませんかね。
へクス子も先月やりました。自社名で聞いた回答に見覚えのないサブドメインが1本混じっていて、社内の誰に聞けばいいのかも分からなかったんですよ。
キャンペーン用に取ったもの、旧社名のもの、製品ごとに切ったもの。ドメインは思っているより散らばっております。
全体を把握しているのは情シスだけ。そういう会社も珍しくありません。
結局そのときは「たぶんうちの」で流しました。確かめる手順を持っていなかった、というだけの話でしてね。
あの1本は、本当にうちのものだったのか。
ところが、AIがブランドとドメインの結びつきをどこまで言い当てられるかを測った評価を読むと、その「たぶん」を潰す順番が見えてきます。公開されたのは2026年6月18日。
AIは自社のドメインを知っているのか
知っております。モデルの記憶だけで挙げさせた条件で、精度は最大82%でした(arXivに投稿されたMashoodとNabeelの評価R)。いちばん当たったモデルで、5本に4本の勘定ですね。
ここでいう「精度」ってのは、AIが「このブランドのものだ」と挙げたドメインのうち、実際にそのブランドのものだった割合を指します。AIが挙げそこねたドメインは、この数字に入っていない。
「記憶だけ」の条件では、検索もさせておりません。登録情報も引かせず、学習の中で覚えていることだけで答えさせた数字なんですよ。
つまり、自社に紐づくドメインの一覧は、もうAIの中に相当な精度で入っている。マーケティング側から見ると、そういう話になりますな。
知っていることと、言い当てられることは別でしてね
著者らは同じ記憶だけの条件で、こんどは別の課題も出しています。
「このドメインは、このブランドのものか」を「はい・いいえ」で答えさせる課題ですね。こちらはマクロF1が最大でも0.37でした。対象になったブランドも同じ36社。
「マクロF1」ってのは、当たりを拾えたかと、外れを混ぜなかったかを両方まとめた点数のこと。1.0が満点ですから、0.37はかなり低い側ですな。
列挙は当たるのに、判定は当たらない。モデルも、ブランドも、記憶だけという条件も同じです。違うのは課題だけ。
思い出せる名前をすらすら並べるのに、目の前の1人が同級生かと聞かれると止まる。同窓会の名簿は書けるのに受付には立てない人、みたいなものであります。
では、この落差はどこから来ているのか。
登録情報を引かせると、判定は0.99まで届きます
参照先にを足した条件だと、同じ「はい・いいえ」の課題でマクロF1が最大0.65ポイント上がりました。精度のほうは0.99まで届いております。取り違えがほぼ消える水準ですな。
WHOISってのは、ドメインの登録者情報が引ける公開の照会サービスのことですね。登録者名、登録組織、登録日といったところが返ってきます。誰でも引けますよ。
この評価で試された参照の条件は、次の4通り。
- モデルの記憶だけ
- Web検索
- WHOIS照会
- それらの組み合わせ
外を1つ引かせるだけで、なぜここまで動くのか。
課題は固定したまま参照させる先だけを入れ替えているので、動いた分は外を引けたかどうかの寄与として読めます。
もっとも、この0.99は評価の中でWHOISを引かせて出た数字です。ふだんのAIが毎回そこまで引く保証はありませんな。
著者らは、ブランド保護の運用に大規模言語モデル(LLM)を組み込むときの推奨まで書いているんだそうな。
で、マーケティング側の打ち手はここに立ちますよ。AIが自社ドメインの持ち主を言い当てられるかは、モデルが覚えている量ではなく、外から引ける記録が揃っているかで決まっている。
AIの側は待つしかありません。記録のほうなら、こちらから触れます。
この0.99を、どこまで自社へ当てはめられるか
これは査読前のプレプリントでしてね(arXiv:2606.20868)。第三者の査読を経ていないので、方法にも数値にもまだ外部の点検が入っていないところであります。
著者の所属は、論文本体の題扉にもarXivの書誌欄にも書かれておりません。掲載学会名の記載もありませんでした。どこの誰がやったかで信頼度を測ることはできない、ということですね。
動機のほうはフィッシング対策でして、マーケティングの可視性測定のために設計された評価ではありません。
条件のほうも、狭いところがありますな。
- 対象はフィッシングの標的として最も多い36ブランド。知名度の高い側に偏っている
- 評価したモデルはGemini 2.5 FlashとGemini 3.5 Flash、Claude Sonnet 4.5とClaude Sonnet 4.6の4つ
- ChatGPTは入っていない
自社で試すときの相手が、この4つとは限らないでしょう。
中小のブランドで同じ82%が出る保証はありません。標的の上位に並ぶ36社は、AIが学習で繰り返し読んだ情報量からして別格ですからね。
要旨の範囲では限界の記載も見当たりませんでした。著者ら自身がどこまでを言える範囲と考えているかは、読み取れないということです。
WHOISの登録者名や登録組織は、「代理公開」で伏せられている場合がありましてね。代理公開ってのは、登録者の名前を代行業者の名義へ置き換えて出す仕組み。
伏せている会社には、それぞれの理由がありますからね。
だから「今すぐ全部公開すべき」とは書けません。
自社へ写せるのは、0.99という数字ではありません。確かめる手順のほうです。
自社の関連ドメインをAIに挙げさせて、外から見えるかを確かめる
社内の台帳の横へ、AIに自社名で挙げさせた関連ドメインの一覧を1枚。この2つを並べてみると、台帳から抜けているものと身に覚えのないものが、両方あぶり出されますよ。
82%は最大値ですから、少なくとも5本に1本近くは違う勘定になります。突き合わせる相手は、あくまでこちらの台帳。AIの一覧は「下書き」ですな。
そのうえで、出てきた自社ドメインの登録者名や登録組織が外から確認できる状態かを、情シスと確かめます。代理公開を外すかどうかは各社の判断ですけどね。知るのが先です。
外れているかどうかを知らないまま可視性の話をすると、材料が1つ足りません。へクス子も、自社の一覧を開くまでは足りないことに気づいておりませんでした。
AIが自社について何を信じているかを測る話は、属性の側をAIの記憶は格子のマス目に整理されていたに置いてあります。今回はその住所録のほうですな。
いやはや、ドメインの登記簿がマーケティングの話になる日が来るとは。
出典
- Fathima Mashood, Mohamed Nabeel, “Can LLMs Reason About Brand Ownership? An Empirical Study of Domain Attribution Intelligence”, arXiv:2606.20868, 2026-06-18, https://arxiv.org/abs/2606.20868