「AI対策って、結局もう知られてる会社が得するだけでしょう」
来期の予算を並べていた会議で、この一言が出て場が止まりました。
へクス子は、その場で何も返せておりません。反論の材料が無かったわけではなく、手元に数字を持っていなかっただけなんですよ。
似た指摘を受けた会社の担当者に、後日3人ほど会いました。
指名検索を食い合うだけの施策なのか、それとも新しい人が入ってくる入口なのか。あの会議でへクス子に足りなかった数字は、米国と英国の買い物客に聞いた調査のほうに載っておりました。
AIの推薦で、知らないブランドが選ばれることはあるのか
選ばれています。米国・英国のオンライン買い物客1,000名超への調査で、5人に1人がそれまで聞いたこともないブランドの商品を、AIに推薦されたという理由で購入しておりました(Rithum × Retail Dive、2026年)。
そして44歳以下の買い物客では、80%超が直近3か月のうちに買い物で大規模言語モデルを使っています。
大規模言語モデル(LLM)ってのは、要は「大量の文章を読んで、質問に文章で答えるAI」のことですね。その代表格がChatGPTでして。
世帯年収10万〜15万ドルの層に絞ると、利用率は84%まで上がっておりました。買う力のある層ほど、先に使っているわけですね。
推薦されたあと、買い手はどこで裏を取るのか
検索エンジン、レビュー、知人のところです。小売事業者の自社サイトを見に行くのは、5%にとどまりました。
この5%だけを見ると、サイトを整える意味が薄いように読めます。
そうはならないんですよ。
残る95%が向かう先にも、自社が置けるものは残っているわけです。レビュー欄の書かれ方、比較記事の並び、業界メディアでの紹介文。どれも自社が手を入れられる面なんですよね。
AIの答えが出たところで買い物が終わっていない話は、名前が出たあと平均2.4か所を回っていた調査にもまとめておきましたよ。
自社の名前は、その95%の側にどれくらい置いてありますかね。
なお同じ調査では、高所得・高意欲の層ほど裏取りをせずに買う傾向も出ているんだそうな。裏取りの経路を全員が通るわけではない、という含みも一緒に置いておくのが筋でしょうな。
AIが自社について間違えたら、何割が離れるのか
AIが誤った商品情報を出したとき、そのブランドへの信頼が下がると答えたのは58%でした。購入そのものをやめると答えたのは16%です。
16%は小さく見えるかもしれない。
ただ、見込み客100人のうち16人が、自社の落ち度ではない一文で消える計算になりますからね。面識のない人が、自社の会社説明を代わりに読み上げているようなものでして、しかもその原稿は誰も確認していないんですよ。
16%を落としてよいと言い切れる会社が、どれだけありますかね。
もっとも、この16%が、実際に購入をやめる人の割合より大きめに出ている可能性はありますよ。買うのをやめる、という答えは、アンケートだと人が多めに選びがちなものでしてね。
当てにならないのは16%という数字の大きさのほうで、AIが商品情報を間違えると購買が落ちる、という関係そのものは、割合がこれより小さくても動かないでしょう。
だから「AIが自社について何と言っているか」を先に測るわけっすね。
この数字を社内資料へ載せるときに、引いておく4点
そのまま貼ると足をすくわれる調査でもありまして。断り書きは4つ。
- Rithum はECのチャネル管理・広告配信を売る事業者で、「AI経由の発見に備えるべき」という結論に商業的な利害があります
- **対象は米国・英国の消費者であり、日本語圏の実測ではありません。**日本の買い物客が同じ割合で動く保証はありません
- 自己申告のアンケートであり、購買ログではありません
- 発行者は限界を明示しておらず、調査期間・標本抽出の方法・設問文のいずれも公表されていません
とくに4つ目は、社内で数字の出どころを聞かれたときに必ず効いてきますよ。
それでも、この20%を無かったことにはできませんね。国も設計も違うところで、まだ名前を知らない相手が実際に買っている、という向きは読み取れるでしょう。
目標を「指名検索の維持」から「まだ名前を知らない人への到達」へ置き直す
持ち帰りは2つあります。どちらも、いま見ている数字の置き場所を動かすだけで始まりますよ。
AI可視性の成果を指名検索の維持で測っている限り、この20%は数字に出てきません。測る先を、まだ自社を知らない層への到達側へ移す。それが1つ目でしょう。
2つ目は、AIの回答に出てくる自社の説明が事実と合っているかを、定期的に確かめることですね。58%と16%は、そこを放置したときに払う額であります。
裏取りの95%が自社サイトの外へ向かう以上、直す面の多くも自社サイトの外にある勘定です。レビューと比較記事に何が書いてあるかを、自社サイトと同じ頻度で見ておけば迷いませんよ。
まずは一度、自社の名前がAIの口からどう出ているかを数えてみてくださいな。
出典: Rithum & Industry Dive (Retail Dive), “Consumer Trust & Discovery Report 2026: The new discovery engine”, 2026