「AI対策、まず構造化データを入れましょう」と言われた場面
代理店の提案書の1行目に、この施策が置かれていることがあります。
同じ提案書を見せられた会社は、この業界に何社もあるはずです。
へクス子も、効果量を聞けないまま持ち帰りました。根拠として示されたのが「引用されているページは構造化データを持つ確率が3倍」という数字だったからです。
3倍と言われると、反論の言葉が出てこないじゃないですか。
ところが、その3倍を足し算の効果として読んでいいのかは、別の話でしてね。
同じ問いを、対照群を置いて実測した検証が出ております。
構造化データを足すと、AIの引用は増えるのか
増えませんでした。
新たにJSON-LDを入れた1,885ページを対照群つきで追ったところ、Googleの「AIモード」で+2.4%、ChatGPTで+2.2%と、いずれもゼロと区別がつかない範囲に収まっています(Ahrefs、2026年5月11日、R)。
Googleの「AIによる概要」にいたっては−4.6%で、こちらは統計的に有意でした。
JSON-LDってのは、ページの中身(これは商品、これは著者、これは価格……)を機械が読める形で書き添えるタグのことです。
schema.orgという共通の語彙を使って書くので、検索エンジンやAIが中身を取り違えにくくなる、と説明されてきました。
検証したのはAhrefsで、著者はLouise Linehanさん。
同社はAI可視性の計測ツールを売っている事業者であります。つまりこの結論は、売り手にとって不利な向きに出ているわけですね。
「3倍」はどこから来た数字なのか
600万URLを見た観察のほうから来ています。
引用されたページの53%が構造化データを持っていて、引用されなかったページのおよそ3倍だった。この数字自体は間違っておりません。
ただ、これは同じ時点で並べて数えた比率であります。足したら増えるという意味は、この数え方からは出てきません。
構造化データを丁寧に入れているサイトは、たいてい他のところも手入れが行き届いております。運用の人手があり、更新頻度があり、社外から言及される機会もある。
3倍という差は、そのひとまとまりの手入れが作った差として読むほうが素直でしょう。
健康診断で「朝食を食べる人は成績がいい」と出たようなもんで、パンを配れば成績が上がるとは限らないわけです。
社内資料に相関の数字だけが載ると、この読み替えが起きます。
対照群を置くと、何が見えたのか
Ahrefsが組み立てたのは、タグを入れた前後を、入れていないページと突き合わせる形の検証です。
- 処置群は、2025年8月から2026年3月に新しくJSON-LDを入れた1,885ページ
- 対照は、事前の被引用の水準が近く、タグを入れていない別ドメインの3ページずつ(約4,000ページ)
- 測ったのは、タグを入れた日の前30日と後30日の被引用回数
で、統計の当て方は4通り試されていて、どれも同じ向きの結論に落ちています。
ここで大事なのは、対照群を置いたことのほうですね。タグを入れた月にAIの引用が全体として増えていたら、前後比較だけでは「増えた」と読めてしまいます。
同じ期間の別ページと突き合わせて初めて、タグのぶんだけを取り出せるわけです。では、この検証はどこまでを言い切れるのか。
この検証が言えること、言えないこと
まず、対象はすでにAIによく引用されているページだけです。
2025年2月の時点でGoogleのAIによる概要から100件以上引用されていたページが母集団なので、まだ一度も引用されていないページについては何も言えません。
次に、交絡があります。交絡ってのは、見たい打ち手と一緒に別の変化も起きていて、どちらが効いたのか切り分けられない状態のことです。
JSON-LDを足すページは、同じ時期にリンクや本文や技術的な修正も一緒に触っていることが多いんですよ。
そのほかの留保も、読者が自社へ当てはめるときに効いてきます。
- スキーマの種類(Article、FAQ、Product、HowTo、Organizationなど)はまとめて扱われていて、種類ごとの効き方は検証されていない
- 観測の窓は処置後30日だけで、60日・90日の長い窓では見ていない
- 対象はHTMLに直接書かれたJSON-LDのみ。MicrodataやRDFa、JavaScriptで後から差し込む書式は範囲外
- AIによる概要での4.6%の下落は実在するが、なぜ下がったのかは説明できていないと発行元自身が述べている
最後の1点は、そのまま受け取っておくのがよさそうです。下がった理由が分からない以上、「タグを外せば戻る」とも読めませんからね。
AIに引用されやすくするには、どこへ工数を寄せればいいのか
記事の中身に数字と出典を足すことと、社外に第三者のレビューを増やすことです。この2つは、同じ被引用の文脈で効果量まで確かめられております。
効かない打ち手が1つ特定できたぶん、工数はこちらの列へ回せますね。
記事の中身の側では、主張に数字と出典を添えることが引用のされやすさを押し上げていました(AIに引用される記事には「数字と出典」を足せ、と示した研究の話)。
社外の面の側では、第三者のレビューが集まっている商品でAIの引用率が1%から75%まで動いた例があります(レビューを集めるとAI引用率は1%→75%に。可視性は”作れる”)。
どちらも、読まれる中身と社外での言及の量を動かす仕事ですね。
では、構造化データはもう入れなくていいのか。そうはなりません。
検索のリッチリザルト(検索結果に価格や評価の星が表示される、あの拡張表示のこと)は今回の検証の対象外で、そちらの用途では従来どおり価値があります。決めるべきは、その工数をどの目標の下に置くかであります。
技術タグとAI被引用を、別々の勘定で持つ
今日決められるのは、勘定の分け方1つですね。
構造化データは検索側の用途で入れて、その効果も検索側の指標で見る。AIの被引用を増やす目標には紐づけない。
この2つを同じ勘定に入れておくと、タグを入れた月に引用が動かなかったときに、何を疑えばいいのか分からなくなります。
そのうえで、空いた工数はページの中身と社外の面へ回して、前後でAIの被引用を実際に測って差を見る。相関の3倍を根拠に順位を決めるのではなく、自社で測った前後差を根拠にする。
ここまで来ると、提案書の1行目に何が来ても効果量を聞き返せますよ。
なんとも地味な結論でございますが、地味なほうが再現するもんでして。
出典
- Louise Linehan (Ahrefs), “We Tracked 1,885 Pages Adding Schema. AI Citations Didn’t Follow”, Ahrefs Blog, 2026-05-11, https://ahrefs.com/blog/schema-ai-citations/