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「名前が出た」の先はどこ?AIに推薦されると指名検索が4.3ポイント増

POINT この記事のポイント
  • 推薦と中立の言及で消費者の動く量が2〜3倍差
  • 「出た回数」だけの一列では効果を半分に見誤る

「で、それで何が増えたんですか」。AI可視性のレポートを出した会議で、資料を1枚もめくれないまま黙り込んだ日が、へクス子にもございます。

名前が出た回数なら出せます。先月より増えたことも言えます。

なんですが、その次に聞かれる「それで売上や問い合わせはどう動いたのか」に、手持ちの数字で答えられない。

へクス子も、出現率さえ積み上げておけば説明はあとから付いてくる、という構えでおりました。

ところが、AIの回答のあと消費者が実際に何をしたかを追いかけた調査を読んだら、話はもう一段細かいところにあったようでして。

名前が出たことと、勧められたことは、同じだけ人を動かすのか。

AIに推薦されると、その後の消費者の行動はどう変わるのか

直前1週間そのブランドに一切接触していなかった人がAIに推薦されると、7日以内にそのブランド名で検索する割合が4.3ポイント増え、自社サイトを訪れる割合が2.4ポイント増えました。小売サイトの商品ページ訪問も1.0ポイント増えています。

これはリンクをクリックした人だけを数えた数字ではありません。AIが名前を出したあと、本人が自分で検索し直して辿り着いた分まで含まれているわけです。

出どころは、AI可視性の計測ツールを提供する Scrunch AI の Michael Iannelli と Alan Ai が2026年6月9日に公開した査読前の論文(プレプリント)ですね(R)。

方法はこうです。ChatGPT・Claude・Gemini の会話ログと、参加に同意した人たちのブラウザ閲覧履歴を、個人単位で突き合わせる。

クリックストリーム・パネルってのは、要は「実際にどのサイトを見たか」が残る実測データのことです。アンケートの自己申告ではないので、覚えている範囲で答える揺れが入りません。

観測窓はAIが答えたあとの7日間。95%区間(推定のブレ幅)は指名検索が3.1〜5.5、自社サイト訪問が1.4〜3.5、小売の商品ページが0.3〜1.7でありました。

なお**ポイント(pp)**ってのは、割合そのものの差のことですね。「3%が7.3%になった」を「4.3ポイント増」と書くので、「4.3%増えた」という相対の伸びとは意味が違います。

「推される」と「並べられる」は、同じ言及でも別物だった

ここからが本題です。著者たちは言及を「推薦」「中立的な言及」「注意喚起」の3つに分けて、同じ未接触ユーザーで比べました。

中立的な言及だと、指名検索は1.8ポイント増、自社サイト訪問は1.1ポイント増、小売の商品ページは0.3ポイント増にとどまります。

推薦の +4.3 / +2.4 / +1.0 と並べると、動く量がだいたい2〜3分の1になるわけっすね。

同じ「名前が出た1回」でも、推されて出たのか、候補として並べられただけなのかで、その後の人の動き方が倍以上違っていた。

可視性のレポートを本数だけで作っていると、この2つは同じ1件として足されます。缶詰と生鮮食品を、重さだけで仕入れ表に書くようなものであります。

同じ回答の中で比べても、差はそのまま残る

こういう数字を見て、へクス子がまず疑ったのが「AIをよく使う人は、もともと検索も購入も能動的なのでは」という筋でした。

そこで著者たちは、同じAI回答の中で、名前が出たブランドと、出なかった同カテゴリのブランドを比べております。

  • 名前が出たブランド: 指名検索 +2.06ポイント、自社サイト訪問 +2.39ポイント
  • 同じ回答に出なかった同カテゴリ: 指名検索 +0.20ポイント、自社サイト訪問 +0.09ポイント

同じ会話、同じ文脈、同じ人の中での比較なので、利用者の性格の差では説明が付きません。効いていたのは「その回答に名前が入っていたかどうか」のほうだったということですね。

行動の順序も見ておきましょう。指名検索と自社サイト訪問は、独立に起きる場合の5.2倍の頻度で同時に発生していたそうな。

つまり検索とサイト訪問は、ひとまとまりの動きとして一緒に起きているわけですね。片方だけを成果指標にすると、同じ動きを半分しか見ていないことになります。

推薦だけを取り出すと、自社の成果は2倍以上に見えてくる

でですね、ここが測定の話としていちばん効くところです。推されたかどうかを区別せず全言及をひとまとめに集計すると、指名検索のリフトは2.08ポイント増になります。

推薦だけを取り出した4.3ポイント増の、半分以下ですね。粗い集計は、自社が実際に得ていた効果を自分で小さく見せていることになるわけです。

効き方の性質にも触れておきます。既存顧客は言及の前から自社サイト訪問がベースラインより1.68ポイント高く、言及後の上乗せは約0.4ポイントにとどまりました。

著者の見立てとしては、AIの推薦は「進行中の検討を後押しする」より、新規の人に届く形に近いということでしょうな。

効いていた先は、すでに知っている人よりも、まだ名前を知らなかった人のほうだった。だとすると、この数字を新規獲得の文脈で読むほうが実態に合っております。

この数字を自社に当てはめるときの読み替え方

持ち帰る前に、限界を正確に置いておきます。

  • 発行元の Scrunch AI はAI可視性の計測・改善を売るベンダーで、「推薦されることに事業価値がある」という結論に商業的な利害がある
  • パネル規模とセルごとの件数は商業上の機微として非公開で、効果量の絶対値を第三者が検証できない
  • 無作為化実験ではなく観察研究(著者は14日前・21日前・28日前のプラセボ窓と同一回答内の対照で交絡を潰しにいっている)
  • 対象は英語圏2市場のオプトイン・パネルで、日本市場の実測ではない。対象AIは3つで Perplexity は含まれない
  • 査読前のプレプリントである

数字はすべてポイント(pp)であって相対比ではないので、「4.3%伸びる」と読み替えないほうが安全ですね。

AI別の生の効果量は Gemini ユーザーより ChatGPT ユーザーのほうが大きく出ますが、同一ユーザー内で比べると差は消えます。AIそのものの力の差ではなく、使っている人の構成の差ということであります。

なので、4.3という水準をそのまま目標値に据えるのは早いですね。持ち帰る値打ちがあるのは、「推薦と中立の言及では効果が2〜3倍違う」という差の構造のほうでしょう。

可視性の一覧に「推されていたか」の列を足す

そんなわけで、AI可視性の効果は「名前が出た回数」では代表できないことが実測で見えてまいりました。推されて出た1回と、並べられただけの1回では、そのあと人が動く量が2〜3倍違う。

そして両者をまとめて数えた瞬間に、効果は半分以下に薄まって見えます。説明に詰まっていた原因の一部は、測り方の粒度の側にあったということですね。

手を動かすところは、2つで足ります。まず、自社の主要な質問でAIが出した回答を開いて、名前が出た回答を「推薦」「中立の言及」「注意喚起」の3つに仕分けること。

そのうえで、名前が出た回数のうち推薦として出た比率を、月に1度、同じ質問で定点にすること。1回の観測では上下が読めないので、同じ形で繰り返すのが肝であります。

回数は数えていても、どう語られたかまでは数えていなかった。いやはや、測り方の一列でここまで見え方が変わるとは、なかなか奥が深い話でございます。


出典

  • Michael Iannelli, Alan Ai (Scrunch AI), “From Prompt to Purchase: How AI Brand Recommendations Move Consumers on the Open Web”, arXiv preprint 2606.10907, 2026年6月9日, arxiv.org(ChatGPT・Claude・Gemini の会話ログとオプトイン・クリックストリーム・パネルを個人単位で突合し、AI回答後7日間の行動を観測。直前1週間そのブランドに未接触のユーザーにおける推薦のリフトは指名検索 +4.3pp [95%区間 3.1–5.5]、自社サイト訪問 +2.4pp [1.4–3.5]、小売の商品ページ訪問 +1.0pp [0.3–1.7]。中立的な言及は同順に +1.8pp / +1.1pp / +0.3pp。同一回答内の対照では、名前が出たブランドが指名検索 +2.06pp・自社サイト訪問 +2.39pp・小売 +0.51pp、同カテゴリで名前が出なかったブランドが +0.20pp / +0.09pp / +0.16pp。姿勢を区別せず全言及をプールすると指名検索 +2.08pp / 自社サイト訪問 +2.37pp / 小売 +0.52pp。既存顧客は言及前から自社サイト訪問がベースラインより +1.68pp 高く、言及後の上乗せは約 +0.4pp。指名検索と自社サイト訪問は独立に起きる場合の5.2倍の頻度で同時発生。生の効果量は Gemini ユーザーより ChatGPT ユーザーで大きいが同一ユーザー内では差が消える。限界: 発行元 Scrunch AI はAI可視性の計測・改善ベンダーで結論に商業的利害がある。パネル規模とセルごとの件数は商業上の機微として非公開。無作為化実験ではなく観察研究で、著者はT−14 / T−21 / T−28日のプラセボ窓と同一回答内対照で交絡に対処。対象は英語圏2市場のオプトイン・パネルで日本市場の実測ではなく、Perplexity は対象外。査読前のプレプリント。効果量はすべてパーセントポイントであり相対比ではない)
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