「引き合いは減っていないのに、声がかからない案件がある」
「失注が増えたわけじゃないんですよ」。四半期のパイプライン会議で、こう報告した方も多いんじゃないですかね。
商談化率は去年と大きく変わらない。提案の勝率も、そこまで落ちていない。
なのに、以前なら当然のように声がかかっていた案件で、そもそも呼ばれた形跡がない。
へクス子も、こういうときはまず提案書と価格表を疑う側でした。テストの点が悪かったので、とりあえず筆記用具を買い替えてみる人か。
なんですが、負けている場所が商談の中ではなく、候補リストが作られる手前だとしたら、提案書をいくら磨いても数字は動かないわけです。
その手前で何が起きているのかを、購買者1,076人に直接聞いた調査がありましてね。
AIチャットの助言は、B2Bの購買先を実際に変えているのか
変えています。購買者の**69%**が「AIチャットの助言に基づいて、当初の予定と違うベンダーを選んだ」と回答し、**33%**が「それまで知らなかったベンダーから購入した」と答えました。
調査したのはソフトウェアレビュー大手のG2で、公開は2026年4月15日です(R)。
対象はB2Bソフトの購買者・意思決定者1,076人。2026年3月に北米・EMEA・APACで実施され、担当者からVP以上までが含まれます。
補足として、B2Bソフトのマーケター39人へのインタビューも行われているそうな。
調べ始める場所が変わったところまでは、まだ「ふーん」の話
前段の数字から見ておきましょう。**51%**が「ソフトの調査を、Googleより先にAIチャットから始めることのほうが多い」と回答しています。
この数字、2025年4月時点では29%でした。1年で20ポイント以上動いたわけっすね。
調査でAIチャットを使う人は71%(7か月前は60%)、「従来の検索より生産的」と答えた人は53%(同36%)。使われているAIはChatGPTが63%で最多であります。
ただ、ここまでは「まあ、そうでしょうね」で終わる話なんですよ。調べ方が変わっただけなら、最後に選ばれる会社は変わらないはずですから。
33%は、知られていない側にとっての数字
で、選ばれる会社のほうも動いていた、というのが本題です。3人に1人が、それまで知らなかった会社から買っている。
これは購買行動としてはけっこうな変化でして、従来のB2B購買では、候補リストが既存の認知にほぼ縛られていたわけですね。
指名買いってのは、要は「もう名前を知っている数社の中から選ぶ」買い方のことです。知られていない会社は、検討される前に候補から落ちていました。
ところがAIが候補を作る経路では、認知の外側から候補に入る余地が生まれています。**33%**は、認知度で大手に負けている側にとっての機会の数字ですよ。
しかも**85%**が「AIチャットが取り上げたベンダーを、より高く評価するようになる」と答えています。名前が出ること自体が、単なる接触ではなく第三者からの推薦に近い重みを持っているということですね。
判断も速くなっていて、5人に4人が「AIチャットで購買判断が速くなった」、**83%**が「最終判断に自信が持てた」と回答しています。
候補に入るなら、自社の説明が何になっているかも見にいく
もちろん、AIの言うことが正しいとは限りません。同じ調査で**64%**が「AIチャットの推薦が不正確なことが、よくある/非常によくある」と答えています。
この数字は「だからAIは当てにならない」と読むこともできます。ただ、それだと自社側で打てる手が何も残らないわけです。
読み替えるとこうなります。購買者の3分の1が知らない会社を候補に入れている場と、その説明が3分の2の頻度で不正確になりうる場は、同じ場所です。
つまり、間違った説明のまま候補から外れることも、同じ確率で起きうる。ここが放置のリスクなんですよ。
自社が何と説明されているかを見ていないと、この種の負けは失注としてすら記録に残りません。声がかからなかっただけですからね。
この数字を、どこまで割り引いて読むか
留保も置いておきます。まず、調査したG2はソフトウェアレビューサイトの運営者であります。
とくに「**45%**がソフトウェアレビューサイトからの引用を最も安心できるシグナルと回答」という項目は、発行者に商業的利害のある設問です。この数字は割り引いて読むほうがいいでしょう。
加えて、これは自己申告のアンケートであって、実際の購買ログではありません。「AIの助言で選んだ」という回答が、購買者の記憶の再構成である可能性は残ります。
対象は北米・EMEA・APACであり、日本単独の数字でもない。国内の商習慣にそのまま重ねられるものではないですね。
とはいえ、69%と33%という水準は、多少割り引いても方向が反転する類の差ではないでしょうな。
比較質問を10個書き出して、自社が何割出るかを測る
AI可視性ってのは、認知施策の話に見えて、実際にはパイプラインの前工程の話になっています。候補リストに載っているかどうかが、商談が始まる前に決まっているわけですから。
そして、その候補リストは認知度調査には映りません。「知られていないから負けた」と「知られていたのに挙げられなかった」は、月次の数字の上では同じ顔をしています。
やることは2つに絞れます。ひとつは、自社の商材について購買者が実際に投げる比較質問を10個書き出すこと。「〇〇 おすすめ」ではなく、条件つきの実際の文で書くのがコツですよ。
もうひとつは、その質問をAIに投げたとき、自社が何割の回答に出てくるかを定点で測ること。1回の結果ではなく、月次で並べたときの推移が判断材料になります。
AI経由のお客さんが実際にどう振る舞うかはAIからの客が一番よく買う時代になった話にまとめてあるので、次に読むならそちらが早いかと思います。
そんなわけで、今日はこのへんで。