「AI対策として、あの記事をリライトしましょう」
会議でそう決まって、数字も出典も足して、見出しも整えた。そんな方は多いんじゃないですかね。
なんですが、しばらくしてAIに聞いてみても、返ってくるのは相変わらず他社の名前ばかり。
やったこと自体は間違っていないはずなのに、手応えだけがない。
へクス子もこの感じ、身に覚えがありますよ。部屋の一角だけ完璧に片付けて引きの写真を撮ったら、何も変わっていなかったときのやつですね。
ところが、AIが答えを作るときの「回り方」そのものを追いかけた実験を読むと、この空振りには構造的な理由がありそうなんですよ。
ShanghaiTech University の研究チームが2026年7月に更新した論文がありまして。今回はそのへんを掘り下げてみたいと思います(R)。
AIは何ページ見てから、答えを決めているのか
まず前提を1つだけ置かせてください。
いまのAIは、質問を受けてから自分で検索し、気になったページを開き、リンクをたどって別のページも見る、という動き方をします。
「」ってのは、要はこうやって自分で調べに回るAIのことです。
今回の実験でも、AIには検索5回まで、ページ取得5回までが許されていたそうな。
つまりAIは、1枚のページを読んで答えを決めているわけではないんですね。
複数のページを渡り歩いて、集めた材料を突き合わせてから結論を出している。この「渡り歩いた道筋」のほうが、実は勝負どころだったという話であります。
架空の製品を検索5位に差し込んで、測った
で、実験の組み立てが少し変わっていまして。
研究チームは、実在する検索結果9件のなかに、架空の製品のページを1件だけ、5位の位置に固定して差し込んだそうな。
順位そのものの影響を消して、「その後どう読まれるか」だけを見るための設計っすね。
質問と製品の組み合わせは3,124件。ここに、比較・推薦を求める実際の質問文が使われています。
そのうえで、差し込む側の中身を4通りに変えて比べました。
- 単一ページだけを置く(比較の基準)
- 既存の(AI向けのコンテンツ最適化)手法3種で、そのページを磨き込む
- 性質の違う6種類のページをそろえて置き、相互にリンクで結ぶ
最後のやり方に、研究チームは TRACE という名前をつけています。
6種類ってのは、公式サイト、レビュー、専門家の記事、ニュース、フォーラムのスレッド、SNS投稿のことですね。
さらにその手前に、6種類への案内役となる軽い入口ページを1枚置いています。
6種類そろえた側が67%。単一ページとの差は31ポイント
では、結果を見てみましょう。
AIが最終的にその製品を「適した選択肢です」と挙げた割合は、こうなりました。
- 単一ページだけ: 35.9%
- 6種類の面をそろえた TRACE: 67.2%
別の2つのデータセットでも、56.2%→71.9%、59.0%→73.9% と、いずれも15ポイント前後の上積みが出ておりました。
面白いのは、ここからでして。
同じ実験のなかで比較された、ページ単位のGEO手法3種は、どれも単一ページとほぼ同じ数字にとどまりました。
35.9%に対して、35.9%、35.9%、28.1%。1つは逆に下がっております。
1枚のページをどう書くか、という方向の工夫が空振りしていたわけですね。冒頭のリライトの話と、きれいに符合しますなぁ。
効いたのは文章量じゃなく、AIの回り道のほう
じゃあ何が効いたのか。研究チームは、条件をさらに切り分けて確かめています。
支援ページが同じだけ存在する状態で、置き方だけを3段階に変えた比較ですね。
- バラバラに置いただけ: 75.0%
- 表記をそろえて相互リンクした: 82.8%
- さらに案内役の入口ページを足した: 89.1%
数字の水準は先ほどの表とは別条件なので、そのまま比べないでくださいませ。見るべきは、同じ材料でも置き方だけで段階的に上がっていることのほうです。
情報量は変わっていません。変わったのは、AIが証拠を集めるときにたどる道筋だけであります。
とくに入口ページを足したときに増えたのは、AIによる内部リンクの巡回でした。
つまりAIは、案内があれば奥まで見に行く。案内がなければ、1枚読んで判断を終える。そういうことになりましょう。
面はでっち上げるものではなく、そろえるもの
ここで、へクス子が風呂敷を広げすぎないように、留保を置いておきますね。
この論文は査読前のプレプリントで、実験も公開ウェブではなく制御された環境の中で行われています。
対象は架空の製品ですし、検証されたAIも GPT-5.1 の1種類だけなんですよ。
そして著者自身が、倫理声明で「これらの手法を実システムや公開ウェブへ適用することは推奨しない」と明記しています。実験コードも完全には公開しないとのことです。
なので、この研究から読み取るべきは手口ではありません。AIエージェントがどう証拠を集めているかという、メカニズムの側だと思うんですよね。
実在しない面を作る話ではなく、すでに実在している自社の面がバラバラに散らかっていないか、という話に読み替えるのが筋でしょう。
直す単位を「ページ」から「面の束」へ
そんなわけで、AIに自社を挙げてもらえるかどうかは、どこか1枚のページの出来では決まらないようです。
自社について語っている面が、種類ごとに存在して、しかも同じ事実を同じ表記で言っているか。そこまでが効き幅になるわけですね。
考えてみれば、これは新しい要求でもないんですよね。
公式サイトの説明、導入事例、レビューサイトの掲載情報、登壇や寄稿、コミュニティでの言及。
どれも普通に存在しているのに、社名の表記も、事業の説明も、微妙に違っていることのほうが多いじゃないですか。
AIから見ると、この「微妙に違う」が突き合わせの邪魔になる。逆に言えば、そろえるだけで効く余地が残っているということでもあります。
同じ方向の話は、これまでにも出ておりました。
AIに引用される文章は”出典と数字”で4割変わるは、1枚のページの中身の話。
一方で引用の4割はRedditからのほうは、自社の外にある面の話でした。
今回の結果は、その2つを別々の施策として持つのではなく、束として一貫させたときに効く、と言っているわけです。
まずやることは、自社について語っている面を種類別に書き出して、事実の表記をそろえるところまでですね。
そのうえで、そろえた前と後でAI上の名前の出方がどう変わったかを測る。ここまでやって初めて、束で整えたことが効いたのかどうかが数字で返ってくるわけですからね。
面を1つ増やすより先に、いま散らかっている面を1つそろえるほうから始めてみましょうかね。
出典
- Hengwei Ye, Jiasheng Mao, Zhenhan Guan, Zheng Tian (ShanghaiTech University), “EcoGEO: Trajectory-Aware Evidence Ecosystems for Web-Enabled LLM Search Agents”, arXiv:2605.12887v2, 2026年7月1日, arxiv.org(Web対応のAIエージェントが、検索・リンク追跡・複数ページの突き合わせという多段の経路で推薦を決めていることを踏まえ、最適化の単位を1ページから「複数ページが張り合う情報環境」へ移した研究。実在の検索結果9件に架空の対象製品を5位固定で差し込む環境で、3,124件のクエリ×製品ペアを評価。対象製品が推薦された割合は、単一ページ 35.9% に対し、公式・レビュー・専門家記事・ニュース・フォーラム・SNSの6種類を表記統一と内部リンクでそろえた TRACE が 67.2%。他2データセットでも 56.2%→71.9%、59.0%→73.9%。一方でページ単位のGEO手法3種(C-SEO 35.9% / E-GEO 35.9% / AutoGEO 28.1%)は単一ページを上回らなかった。別条件の切り分け実験では、非協調 75.0% → 協調 82.8% → 入口ページ追加 89.1%(SafeSearch)。注記: 査読前のプレプリント。制御環境・架空製品・GPT-5.1単独での検証であり、順位獲得の難易度は評価に含まれない。著者は倫理声明で実システムや公開ウェブへの適用を推奨しないと明記している)