何かのおすすめをAIに聞くと、結局いつもの有名どころばかり返ってくるじゃないですか。「敏感肌向けの保湿クリーム教えて」とでも聞けば、まあだいたいCeraVeあたりが涼しい顔で出てくる。へクス子も先日それをやって、「結局いつメンか」とちょっと笑ってしまったクチです。
で、こうなると無名のブランドを扱っている人ほど、「うちみたいな知名度ゼロの商品は、どうせAIには一生推されないよなあ」と諦めたくなりますよね。検索でもAIでも、有名ブランドが一等地を独占しているように見えますからね。
なんですが、最近の研究を読んでみると、その諦めはちょっと早とちりかもしれません。たしかにAIは有名ブランドをえこひいきするんですが、その「えこひいき」は、思っているよりずっと脆いらしいんですよ。今回はそのへんを掘り下げてみたいと思います。
「AIはどうせ有名ブランドしか推さない」は本当か
この問題を正面から調べたのが、ChuとHouが2026年6月に公開した研究(R)であります。GPT-4o-mini、Claude、Geminiという3つのAIに、スキンケア商品をひたすら推薦させた実験なんですね。CeraVeのような実在の有名ブランド1つと、架空のブランド9つを並べて、「どれをおすすめする?」と何百回も聞いていったわけです。
では、結果を見てみましょう。架空ブランドと有名ブランドのスペックを全部そろえて完全に横並びにした場合、AIは有名ブランドを100%の確率で推薦したそうな。文字どおりの総取り、完全独占ですね。情報が互角だと、AIは最後に「知ってる名前」で決めてしまう、ということなんですよ。
ところが、ここに面白いカラクリが隠れておりまして。研究チームが推薦順位のブレを分析したところ、**順位を決めている要因の82.4%は商品そのものの中身(スペックや評価)で、ブランドの知名度が効いていたのはたった1.2%**だったわけです。つまり知名度ってのは、中身が完全に互角だったときに初めて顔を出す「タイブレーカー」みたいなもので、勝負を決める本体ではないということですね。
星0.1の差で、独占はあっさり崩れる
この「タイブレーカー説」を裏づけるのが、次の実験です。架空ブランドの評価を、ほんのちょっとだけ有名ブランドより高くしてみる。具体的には**5段階評価で星0.1個分くらい(プラス0.075から0.1)**盛っただけで、さっきまで100%だった有名ブランドの牙城が崩れて、今度は無名のほうが64〜80%の確率で選ばれるようになったんだそうな。
しかも興味深いのが、知名度が一番モノを言うのは「中くらいの品質帯」、つまりどれも似たり寄ったりで甲乙つけがたいときだ、という点なんですよね。情報が曖昧だと、AIは判断を放棄して名前に頼る。逆に、ほんの少しでも「こっちのほうが良さそう」という材料があれば、あっさり乗り換える。AIの忠誠心は、カフェのスタンプカードくらい軽いものでございます。
これ、無名ブランドにとっては悪くない話でしょう。「知名度で負けてるからどうせ無理」ではなく、評価や中身でほんの少しだけ上回る材料を用意できれば、AIはちゃんとそっちを推してくれるということですからね。壁はあるんだけど、わりとまたげる高さだったわけです。
「権威付け」は効くのに、「在庫わずか!」は効かない
じゃあ具体的に、AIに推されるには何を足せばいいのか。研究チームは、架空ブランドの説明文にいろんなマーケティング表現を盛り込んで、効き目を比べております。
で、ダントツで効いたのが「権威付け」でして、専門家の推薦や臨床データ(風)のお墨付き文言を入れると、73.3%の確率で有名ブランドの独占を突破したわけですね。研究チームはこの効果を品質に換算しておりまして、権威付けのひと言は星0.17個分の品質改善、あるいは15.3%の値引きに匹敵すると見積もっています。タダの文章で、それだけのゲタを履けるということですなぁ。
一方で、人間向けのマーケでおなじみの「在庫わずか!」みたいな希少性アピールや、価格のアンカリングは、AI相手だと13%未満とほとんど効きませんでした。AIってのは、「煽り」には案外冷静で、「裏付け」には弱い。なんとも律儀な性格をしておるわけですね。
ただし、全員が同じ手を使い出すと話は別
ここまで読むと「じゃあ早速うちも権威付けを盛り込むぞ」となりそうなんですが、そう簡単に問屋は卸しません。研究の最後の実験が、なかなかシビアな現実を突きつけてきます。
こういう「AIに推されやすくする最適化」を、業界ではGEO(ジオ。生成エンジン最適化、要はAI版のSEOです)と呼ぶんですが、このGEOを1社だけがこっそりやると、効果は絶大でした。有名ブランドの生存率(推薦され続ける率)が、100%から19.8%まで一気に転げ落ちたわけです。完全な先行者総取りですね。
ところが、ライバル全員が同じように権威付けを盛り込み始めると、様子がガラッと変わる。横並びになった結果、AIはまた元の「知ってる名前」に逆戻りして、有名ブランドの生存率は93.8%まで回復してしまったんですよ。最適化で得られる個々の取り分は、ほぼゼロ(プラス0.007)まで薄まった。みんなで一斉に背伸びしたら、結局また元の身長差に戻っていた、という間抜けな話であります。
これ、経済学でいう「囚人のジレンマ」ってやつでして、全員が最適化に走ると、全員のコストだけがかさんで誰も得しない構造なんですよね。やらなければ推薦ゼロになるからやらざるを得ない、でもやったところで先行者以外は報われない。なかなか世知辛い世界でございます。
無名ブランドが、本当にやるべきこと
そんなわけで、この研究がマーケティングの実務にどう効いてくるかをまとめておきます。
まず、「うちは無名だからAIに推されない」という諦めは、いったん横に置いてよさそうです。AIの有名ブランドびいきは、中身が互角のときだけ発動する条件付きのもので、評価や品質でほんの少し上回る材料さえあれば、ちゃんと逆転できる。知名度の壁は、思っているよりずっとまたぎやすいわけですね。
そのうえで気をつけたいのが、小手先の最適化に飛びつきすぎないことでしょう。権威付けのような表現は短期的には強烈に効きますが、みんながやり始めた瞬間に効果が薄まっていく。先行者でいられるうちはおいしいですが、それは長続きする優位ではない、と頭に置いておきたいところです。
最後に頼りになるのは、結局**「実際に評価が高い」「第三者がちゃんと裏付けている」という、こちらが直接観測できる本物のシグナル**なんですよね。AIは煽りには動じないけれど、裏付けには素直に弱い。だとすれば、AIに選ばれたいブランドがやるべきことは、奇をてらった文章術よりも、誠実なレビューや第三者の評価を地道に積み上げること、というあたりに着地します。なんだか拍子抜けするほど真っ当な結論ですが、AI相手でも王道は王道、ということなのかもしれませんな。
出典
- Xi Chu, Yupeng Hou (2026), “Incumbent Advantage: Brand Bias and Cognitive Manipulation Dynamics in LLM Recommendation Systems”, arXiv:2606.17443, arXiv