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AIからの流入は本当に「濃い」のか?973サイトの実データで確かめてみた

POINT この記事のポイント
  • 973サイトの実測で、AI流入の成約率は有料SNS超え検索未満
  • 効くのは複雑な商材ほど、AI全振りは時期尚早という話

「ChatGPT経由は9倍コンバージョンします!」って、信じていいの?

最近、SNSをながめていると「ChatGPT経由の客はコンバージョン率が9倍」みたいな、やたら景気のいい数字が回ってくるようになりましたよね。そういう数字が上司の目に留まると、決まって「うちもAI流入を取りに行くぞ」という号令がかかるわけです。

へクス子の周りでも、その手の数字を見せられて「すごい、AIってもう金脈じゃん」と盛り上がる人を見かけました。気持ちはわかるんですよ。桁が違いますからね。

なんですが、当のマーケター本人は、内心ちょっと引いていたりするじゃないですか。「その9倍って、どこかの1社の事例じゃないの?」「うちの商材でも同じことが起きるの?」と。派手な数字ほど、裏の但し書きが気になるものでしょう。

そこで今回は、よく引用される「桁違いの事例」の出どころをまず確かめて、それから973サイト・取引2億件という大規模な実測データと突き合わせてみたいと思います。AI流入は本当に「濃い」のか、それは自社にも当てはまるのか、を地に足のついた形で見ていきましょう。

まず、その「9倍」がどこから来たのか

話の発端になっているのは、デジタルマーケティング代理店のSeer Interactiveが公開した、あるB2Bクライアント1社の事例です(R)。2024年10月から2025年4月までの流入チャネル別に、コンバージョン率を比べております。

コンバージョン率(CVR)ってのは、要は「サイトに来た人のうち、何割が申し込みや購入まで進んだか」という割合のことですね。で、その数字がこうなっておりました。

  • ChatGPT経由のコンバージョン率は 15.9%、Googleの自然検索は 1.76%
  • 他のAIも高めで、Perplexity 10.5%、Claude 5%、Gemini 3%

ChatGPTと自然検索を並べると約9倍。なるほど、これは確かにSNSで拡散したくなる数字であります。

ただ、ここで但し書きをよく見ておく必要があるんですよ。AI流入由来のコンバージョンは、件数にすると 1,370件。一方の自然検索は約1,400万セッション規模でして、率は派手でも、AIから来て成約した絶対数そのものは、けっこう小さいわけです。打率10割といっても、まだ2打席しか立っていない新人くらいの心もとなさはありますなぁ。

しかもこれはB2Bソフトウェアという、検討期間が長くて単価も高い商材の話です。ユーザーがAIとさんざん相談して、ほぼ心を決めてからクリックしてくるので、来た時点での購買意欲が異常に高い。差が極端に出やすい条件がそろっているわけですね。

大規模で見ると、AI流入の「順位」はどのへんか

では、もっと広く均した実態はどうなのか。ここで効いてくるのが、Goethe大学フランクフルトとMannheim Business Schoolの研究者が2025年に公開した大規模調査です(R)。なにせ規模が違いまして、973のECサイト、合計売上200億ドル(約3兆円)、12ヶ月分のファーストパーティデータを分析しております。

比べているのは、ChatGPTからの流入5万件超と、従来チャネル1.64億件の取引です。1社の事例ではなく、約1,000サイトを束ねて均すと、AI流入の実力はどのあたりに着地するのか。研究チームの結論を、マーケターの感覚に翻訳するとこうなります。

  • AI流入のコンバージョン率やセッション当たり売上は、有料SNS広告(ペイドソーシャル)は上回る
  • ただし、自然検索やメールには及ばない

「ペイドソーシャル」ってのは、InstagramやFacebookなどに出すSNS広告経由の流入のことですね。つまりAI流入は、広告で連れてきた客よりは濃いけれど、もともと指名で探しに来る検索やメールの客には負ける、という中間あたりに位置していた。「無条件の金脈」ではないけれど「ただのバズ」でもない、という地に足のついた像が見えてくるわけです。

面白いのは、効き方が「商材」で変わるところ

で、この研究がさらに面白いのは、AI流入の効き目が商材によってくっきり変わると示した点なんですよ。

具体的には、商品カテゴリが複雑なほど、AI流入の金銭的な成果もトラフィックのシェアも高くなる傾向が出ております。逆に、選ぶのに迷わない単純な商材では、AI流入とほかのチャネルの差はあまり出にくい。

これは考えてみれば腑に落ちる話でして、複雑な商材ほど、人は「どれを選べばいいか」をAIにじっくり相談しますよね。比較も条件整理もAIに手伝ってもらって、納得してからクリックする。だから来訪時点で意欲が高い。さっきのSeerのB2Bソフトの事例で差が極端に出たのも、まさにこの「商材が複雑」という条件にきれいに乗っかっていたからでしょうな。

ということは、自社の商材が複雑系なのか単純系なのかで、AI流入に賭けるべき熱量はそもそも変わってくる、ということになりましょう。

時系列で見ると「今すぐ全振り」は早とちりかもしれない

もう一つ、見落としたくない論点があります。時間の経過でAI流入の質がどう動いたか、です。

12ヶ月を通して、コンバージョン率自体は着実に改善していったそうな。ここだけ見ると「やっぱり伸びてる、急げ」となりそうなんですが、そう単純でもないんですよね。同じ期間に、平均注文額が下がっていたんです。

平均注文額(AOV)ってのは「1回の注文あたりの平均金額」のことでして、これが下がると、コンバージョン率が上がってもトータルの稼ぎは相殺されてしまう。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態なわけです。

研究チームの見立てでは、AI流入は時間とともに従来チャネルへ近づいてはいくものの、1年以内には自然検索とのパリティ(同等)には届かないと予測しております。まだ新しいチャネルなので確定的なことは言えませんが、少なくとも「今のうちに全リソースを振り向ける」と判断するには、根拠がまだ足りないということですね。

桁違いの数字は「条件付きの真実」。質は自社データで測る

ここまでをいったん整理しますと、「ChatGPT経由は9倍」のような派手な事例は、嘘ではないけれど「条件付きの真実」だった、というのが正直なところです。検討期間の長いB2B商材で、母数の小さいうちに測れば、率はいくらでも派手になりうる。一方で973サイトを均すと、AI流入は有料SNS広告は超えるが検索やメールには及ばない、複雑な商材でこそ効く、という落ち着いた姿が見えてきました。

なので、上司から桁違いの数字を見せられても、まず確認すべきは2つに絞れます。ひとつは、自社の商材が「AIにじっくり相談してから買う」複雑系かどうか。複雑系であればAI流入は効きやすく、単純な商材なら過度な期待は禁物です。もうひとつは、他社の率を信じる前に、AI流入の質を必ず自社のデータで測ること。コンバージョン率だけでなく注文額まで見ないと、伸びているのか相殺されているのかが分かりません。

次の一歩としては、自社サイトのアクセス解析で、AI経由の流入だけを切り分けて、成約率と注文額をほかのチャネルと並べて眺めてみるのがいいでしょう。へクス子も、自分の数字を一度この目で見るまでは、よその「9倍」を信じる気にはなれない口でして。他社の「9倍」は他社の条件の話であって、自社の答えは自社のデータの中にしかないわけですね。そこさえ押さえておけば、景気のいい数字に振り回されずに、落ち着いてAI流入と付き合っていけるはずです。


出典

  • Kaiser, M. & Schulze, C. (2025), “ChatGPT Referrals to E-Commerce Websites: How Do LLMs Compare Against Traditional Channels?”, SSRN Working Paper, リンク
  • Seer Interactive (2025), “Case Study: 6 Learnings — How Traffic from ChatGPT Converts”, リンク
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