「あれ、私のChatGPTと答えが違うね」
最近、同僚と「ChatGPTにこう聞いたら、こう返ってきた」なんて話をしていて、ふと首をかしげることはないでしょうか。同じようなことを尋ねているはずなのに、相手のChatGPTと自分のChatGPTで、返ってくる答えがびみょうに食い違っているんですよね。おすすめされるサービスも、説明のこまかさも、なんだか噛み合わない。
へクス子も先日、知人とそれぞれの「AIに立ててもらった旅行プラン」を見せ合ったら、中身があまりに別物で笑ってしまいました。同じ道具を使っているはずなのに、どうしてここまで差がつくのか。
実はこれ、AIが急に賢くなったというより、AIが「あなたのことを覚えるようになった」結果なんですよ。OpenAIが2026年6月にChatGPTのメモリ機能を大きく刷新しまして、その中身を知ると、これはマーケターやブランド担当にとっても他人事ではないわけです。今回は、その「個人化するAI」の正体と、ブランドの見え方への影響を、ちょっと覗いてみたいと思います。
ChatGPTが「あなた仕様」に育ち始めた
紹介するのは、OpenAIが2026年6月に発表したメモリ刷新「Dreaming」というアップデートですね(R)。メモリってのは、要は「過去の会話から、あなたの好みや状況を覚えておく仕組み」のことでして、AIはこの記憶をもとに、次からの応答を一人ひとりに合わせて変えてくるわけですね。
数字で見ると、これがなかなかの進化ぶりであります。過去のやり取りをどれだけ正しく思い出せるか(事実想起)は、2025年の67.9%から82.8%まで上がったんだそうな。あなたの好みにどれだけ沿えるか(嗜好への適合)のほうも、タスクの成功率で71.3%まで来ているとのことです。
ここで「自社製品の発表なんだから、いいことばかり言ってるんじゃないの」と身構えるのは、健全な態度でしょう。実際この数字は割り引いて見るべきなんですが、「AIがユーザーを覚えて応答を個人化する」流れが本格化している、という方向性そのものは、押さえておきたいところであります。
「みんな同じ答え」が、もう前提じゃない
で、この個人化が、具体的に何を変えるのか。OpenAIが挙げている例が、なかなかわかりやすいんですよ。
メモリが効いている状態だと、AIはあなたの過去の話題、たとえば持っているカメラの機種や、前に相談した旅行の計画なんかを踏まえて、推薦を返してきます。いっぽうメモリを切ると、誰に対しても同じ、汎用的なリストが返ってくるだけ。後者だと、結局そこから自分で調べ直す手間が残るわけですね。
つまり、これまでは「ChatGPTに聞けば、だいたいみんな同じような答えが返ってくる」と思えていたのが、これからは「人によって返ってくる答えが違う」のが当たり前になっていくわけです。冒頭の「同僚と答えが違う」というのは、その入り口にすぎないということですね。
便利なのに、中身は誰も確かめられない
ところが、この個人化には、ちょっと厄介な裏面がありましてね。人とコンピュータの関わりを研究する国際会議ACM CHIの2026年の発表が、ここに鋭い指摘をしているんだそうな。
それは「個人化と利便性のパラドックス」と呼ばれるもので、要は「ユーザーが最も価値を感じる機能ほど、最も中身を監査しづらく、制御もしづらい」という話です。AIはあなたのプロフィールを会話のたびに少しずつ更新していくんですが、そのプロフィールがどう作られ、どう使われて今の推薦に至ったのか、ユーザー本人ですら完全にはたどれないわけです。
これ、家計をまるごと誰かに任せて、毎月いい感じにやりくりはしてもらえるんだけど、明細だけは一切見せてもらえない、みたいな居心地の悪さに近いんですよ。便利なのは、間違いない。でも「なぜこうなったのか」を確かめる手立てが、こちらには残されていない。
便利さと監査しにくさが同居していて、なんとも据わりの悪い話ですなぁ。実際の報道でも、メモリ刷新にともなって個人化の根拠をたどりにくくなる点が、すでに指摘されております。
ブランドの「AIでの見え方」は、もう一律じゃない
さて、ここからが、売る側・ブランド側にとっての本題でしょう。
AIの推薦が一人ひとり個人化されるということは、あなたの会社の商品やサービスが「AIにどう見えているか」も、相手によって変わるということなんですよね。Aさんのところでは推薦リストの常連なのに、Bさんのところでは一度も顔を出してくれない。そんなことが、普通に起こってくるわけであります。
ここで困ってくるのが、AI可視性の測り方なんですよ。AI可視性ってのは、要は「AIが自社のことを、どれだけ自然に推薦してくるか」の度合いですね。
これまでありがちだったのは、「自社についてChatGPTに聞いてみて、出てくるかどうかを見る」という単発のチェックでした。ところが個人化が進んだ世界では、そのやり方は「誰のChatGPTで測ったか」しだいで、答えが揺れてしまう。まっさらなアカウントで測った結果は、たっぷり履歴を抱えた実際のユーザーから見える景色とは、別物かもしれないわけっすね。
結論: 「誰から見たAIか」まで意識して測る
ここまでをまとめると、ChatGPTの個人化が進むほど、ブランドの「AIでの見え方」は一つの正解では語れなくなる、ということになりましょう。同じ問いでも、相手の履歴しだいで、推薦は変わる。だとすると、「うちはAIにどう見えているのか」という問いの立て方そのものを、少し見直す必要が出てまいります。
実務でまず意識したいのは、AI可視性を「たった一つの数字」で捉えないことですね。まっさらなアカウントでの単発チェックは、いわば全員をならした平均像であって、個人化を織り込んだ実際の見え方とは、どうしてもズレてくるわけですね。一回測って安心するのではなく、聞き方や想定する相手を変えながら、幅をもって眺める構えが要りますしね。
もう一つは、「誰に向けた見え方なのか」という視点を持つことでしょう。個人化の中身そのものは、こちらから覗けません。それでも、どんな履歴を持つ人が、どんな場面で自社を探すのか、そこをどれだけ解像度高く思い描けるかで、打ち手の精度は変わってくるわけですね。
AIの個人化は、まだ中身がブラックボックスの、発展途上の領域です。確定的なことはまだ言えません。ただ「AIに映る自社の姿は、もう一枚絵ではない」という前提だけは、早めに持っておいて損はないでしょう。
まずは自分のアカウントと、まっさらなアカウントの両方で、自社の名前をAIに尋ねてみる。その答え合わせから、のんびり始めてみるのもいいかもしれませんな。